居酒屋のテーブルに並んだ枝豆の皿を前に、誰かがぽつりと口を開いた。
「結婚=幸せってわけじゃないやん。なのに、結婚してるかどうかで人を判断してくる世の中、ほんま嫌い。独身は独身で楽しいし、一人の方が気楽やと思う。
……でもさ、会社で年上の人を見て『だから独身なんやろな』って一瞬でも思ってしまった時、自分が一番そういう価値観に縛られてるんやって気づいて、めっちゃ腹立つねん。自分に腹立つ」
彼女はそう言って、枝豆を指で弾くように口に運んだ。
大手企業に勤め、順風満帆に見える彼女のそんな言葉に、みんな「わかる」と小さく頷いた。
私は既婚者という立場でありながら、その会話に強く心を揺さぶられていた。
頷くことに少しの後ろめたさを覚えつつも、胸を締め付けられた一人だった。
結婚して得られるものもあれば、結婚で失うものもある。
最近は「結婚=幸せじゃない」という言葉を、ネットを開けば簡単に目にする。
未婚率の高さを伝えるニュースに、私はときどき安堵すら覚えていた。
それなのに、親に「結婚しなくても幸せな人はたくさんいる」と説くたび、涙が出そうになるのはなぜだろう。
結婚という言葉を耳にするたび、自分を否定されているような気持ちになるのはなぜだろう。
みんなの話を聞きながら、少し前に母へ叫んでしまった日のことを思い出した。
「そんなに結婚のことばっかり言われたら、死にたくなる!」
私は今、結婚している。
夫のことは本当に好きだ。毎日ハグをして、大好きを伝え合っている。嘘じゃない。
けれど、彼女の言葉を聞いたとき、胸の奥にふと浮かんだ考えがあった。
――私には結婚を睨みつける気力も、もう残ってなかったんだろうな、と。
